印刷用表示 |テキストサイズ 小 |中 |大 |


SYRO(BMZスタジオ名古屋) since 2010-03-14

banner-bg.jpg

フィッティングのこと、からだのことなど、思いついたら書き綴る、不定期更新のコーナーです。


適正って、なんだろう。。。

湯浅選手が語った「自分の調整範囲」という言葉

2008年の春だったか、アルペンスキーの湯浅直樹選手のインソールをつくり、リッドで簡単なフィッティングした際、こんなやりとりがあった。

カントとか、みなくても大丈夫? と聞くと、彼は、「はい、大丈夫です」と答えた。というのも、以前に負った膝の怪我の影響で、明らかに左右の膝の向きや曲がり方が違っているのだ。

カントをみて、足元~膝、股関節の関係を明らかにする、これまで多くのスキーヤーのフィッティングを、そこで得た数値によって「適正」か否かを判断してきた。

普通に考えれば、彼の足はカントを計測し、必要に応じた調整が必要になるだろう。しかし、彼はこう続けた。

「大丈夫です。自分の調整範囲なんで」

彼のブーツは、ヨーロッパの工場出荷の段階で、彼の足型にあわせた状態に加工されて(ふくらませたり削ったりして)手に渡っている。しかし、特にカント調整のようなものはしていないという(当時)。

BMZのフィッティングは、足の運動機能軸がブーツのセンターのラインに重なるようにすることを基本に置いている。また、単に重なればOKというのではなく、一定の基準に照らし合わせることで、「どういう状態」かをイメージできるようにしている。

その基準のひとつが、センターリングであり、もうひとつがとカンティングである。それぞれの詳しい説明は<SERVICE MENU>の方でご確認いただくとして、センターリングにしろ、カンティングにしろ、その目的は、「よりまっすぐに」力を伝えられる(受け止められる)ようにする、ためにある。

しかし、この数値に合わせようと必死になっていた頃は、どうしても「数字は適正値だけど、動きに違和感が出る」などの問題も稀にあった。今にして思えば、これが「調整範囲」を無視したフィッティングだったのかもしれない。

湯浅選手からヒントをいただいた一昨年の冬のシーズンから、その辺の考えを少し変えて、カント計測の目的をちょっと変えてみた。要は、現状をスキーヤー本人が知ること。現在の足元~膝~股関節の関係がどうなっている、というのを本人が客観的に知ることで、動いた結果がどのようになるかを予測できる。

たしかに、何も考えずに、動いたらスムーズにいい方向に関節が曲がる、というのが一番ではあるが、そうすることで自分の普段の感覚とは違う方向に関節が動き、足の裏の荷重感なども変わってくるだろう。その変化が別の意味で「調整範囲内」ならば、その調整は間違いではないと思う。しかし。違和感として認識されたら、たとえ数値的にOKでも、問題あり、ということになる。

BMZに立方骨コンセプトのヒントを与えてくれた 小柳公譽先生 は、こんなことを言っていた。
「もともとの足や骨格に歪みがある場合、その歪みが強ければ強いほど、矯正は難しくなるし、矯正すればするほど違和感が出る」
矯正は調整と置き換えることができる。

<こうした方がいいけど、こうすると動きに違和感が出るだろうなー、かといってそうしないと痛みが出るだろうしなー。。。>など、それは私の腕が未熟なのでそういうことに悩んでいるだけなのかもしれないが、いずれにせよ、「適正って、なんだろう」、という疑問にどうしてもぶちあたる。

たぶん、明確なものはないような気もする。人それぞれなのだとも思う。しかし、何を基準にその「いい」とか「悪い」とか、「合っている」とか「合っていない」というかを考えたとき、その判断材料としてのセンタリングやカンティング測定は有効であることに間違いない。

足に違和感が生じないように(ブーツシェルやインナーによって骨格が歪められないこと、そもそもの足の歪みを解消方向にすること)

靴を履いている時とはいていない時とで、動きに違和感が生まれないように(力をかけていく方向やタイミング)

ブーツやスキー、そしてそれらを介して雪面に力を加えていく(受ける)とき、できるだけまっすぐになるように(完全に直線ということではない)

ブーツシェルがもともと持っている構造的な機能・思惑をできるだけ殺さないように

BMZスタジオ名古屋では、これからも悩みながら「ちょうどいい頃合」を探していこうと思っています。

080401_2.jpg